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書評20191111:アンダー、サンダー、テンダー(チョン・セラン)

すごい小説を見つけてしまった感触がある。

 

10年前に舞城王太郎の『ビッチマグネット』を読んだ時みたいな、ビコーン!があった。

小説だけじゃなくて映画もドラマも、ていうか、食事も家具も香水もなんでもそうだろうけど、良い悪い以上に大切なのは合う合わないだと思うんですが。

最初の1ページで合う!と思った久々の小説です。

 

『故郷を失った人たちは、うちの店でせっせとククスを混ぜた。生まれ故郷に戻れないという大きな悲劇の前で黙々と、しかしとてもリズミカルにククスを混ぜる人たちを見て育ちながら、私は自然に学んだ。人は、その内面にどうしようもない空洞を抱えていても、生きていけるということを。悲劇と同じくらい、ククスの薬味や調味料も重要なのだということを。』

 

ソウル郊外の都市パジュに住み、同じ通学バスに乗る『私』、ソンイ、ジュヨン、ミヌン、スミ、チャンギョム、それからジュヨンの弟のジュワンの7人の高校時代~30代を描く群像劇的な小説です。

すごい勢いで一度読み終わして、さらにもう一度読んでいて思ったのは、読んでいる時の感覚がまるきり岡崎京子の作品を読んでいる時のようであること。

ノスタルジックで切なくて、痛くて悲しくて、でもただそれだけではない複合的な気持ちを抱かせる作品。すげえな!

韓国人の友達に聞いたんですが、舞台のパジュは新興都市ということもあるし、北朝鮮が隣接した地域であることもあり、かなりシンボリックな場所みたいです。

 

中国小説の『三体』を読んだ時も思ったのですが、とにかく翻訳が素晴らしいです。

ここ最近はアジア文学の翻訳の質がものすごく上がっているのかな、と思います。

読み終わった後、思わず翻訳の吉川凪さんが翻訳した別の本も探してしまいました。

 

同じ作者の『フィフティー・ピープル』もおすすめです。

個人的には『アンダー、サンダー、テンダー』のが全然好きですが。

韓国文学すげえな!