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書評20191111:82年生まれ、キム・ジヨン(チョ・ナムジュ)

チョン・セランの小説にどハマりしてしまった余波で韓国文学を漁りはじめ、
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いま最も有名な韓国文学である『82年生まれ、キム・ジヨンを見逃していたことに気づく。

最近、映画化もしましたし、K-POP界隈でもBTSのRMや少女時代のスヨンなどが読んでいたり、Red Velvetのアイリーンが『読んだ』と発言しただけで大炎上したことは記憶に新しいです。

フェミニスト文学』と称されるジャンルのようですが、まさにその通りでキム・ジヨンという女性の半生を通して80年代~現代の社会における女性のあり方を描いた小説です。

 

キム・ジヨン氏が国民学校に通っていたころ、担任の先生が日記帳に書いてくれた一行のメモをじっと見ていた母が、いきなりこう言ったことがある。

「私も先生になりたかったんだよねえ」

お母さんというものはただもうお母さんなだけだと思っていたキム・ジヨン氏は、お母さんが変なこと言ってると思って笑ってしまった。

「ほんとだよ。国民学校のときは、五人きょうだいの中で私がいちばん勉強ができたんだから。上の伯父さんよりできたんだよ」

「それなのに、どうして先生にならなかったの?」

「お金を稼いで兄さんたちを学校に行かせなくちゃいけなかったから。みんなそうだったんだよ。あのころの女の子は、みんなそうやってたの」

 

この小説は支持ももちろん凄かったが、批判も凄まじかった。

パワーのある小説なのだ。

というか、これは小説ではなく小説の形式をとった啓蒙書であるという部分も大きいと思います。

 

メジャーな支持のレビューは『共感できた』、『自分の身にも起こっていたことだった』、『見ないようにしていたことだった』など、よくぞ文字化してくれた!という称賛が殆ど。

対して、メジャーな批判のレビューは三種類あると思います。

①(男性からみて)不公平である

②(小説として)つまらない

③つくり話である

まず①、これは『男は男で辛いことが沢山あるのに、女ばかりこうやって辛いことを可視化して主張するなんて卑怯だ』という感じ。

これは本当に的外れだし、小説の中でも言及されています。

ざっくり言えば、男性に対する『男だから』、『男なのに』、『男は』、『男なら』には大なり小なり見返りがあるのでは?じゃあ女性に対する『女だから』、『女なのに』、『女は』、『女なら』に付随するベネフィットとは?それって本当に釣り合っているの?という疑問だと思います。

そして②、これは半分当たってると思います。

なぜなら、前述したとおりこの小説は厳密には小説ではなく小説の形式をとった啓蒙書だからです。

そして、ストーリーは起承転結と流れるわけではなく、起承…くらいでゆるやかに終わります。

なぜか?最後の章を読めばよくわかると思うのですが、この小説がテーマにしていることがまだ社会において完結されていないからこの小説も完結しないのです。

というか、永遠に完結することはないテーマだとは思いますが。

最後に③、これは小説に対してどんな批判なのか?って感じはしますが。笑

物語の冒頭で発狂したキム・ジヨンのカウンセリングというかたちで、キム・ジヨンの半生を追っていく形式のストーリーラインは確かに極端かもしれないですが、テーマを物語に落とし込む手段なのかなという感じです。

これが、ただ静かに文学的にに女性の不条理を書いただけの小説だったらこんなにセンセーショナルな扱われ方はしなかったと思います。

これだけ怒涛の不条理の連続を、自然にサラっと書き続けたことに意味があるような。

そして、『これは所詮絵空事です』と男性側(レビューが男性かはまぁわかりませんけど…)と言うのはそもそもどうなんだろうか。

 

僕は中高大と比較的女性が多い環境で育ち、自分自身がゲイということもありどことなく中立な立場で見ていて、男女は今は公平だし、差があるとしても他の部分で埋まっていてほぼイーブンだよなと楽観的に考えていました。

ただ、社会に出ると『女だからあっちの部署にした』、『それは女の子がやる仕事だから』という発言がポロポロっと管理職のおじさんから出てくるのに衝撃を受け、中途で入った会社で自分でお茶を淹れ自分の来客に出していたら社長が通りかかり『男にお茶を淹れさせてるなんて、恥ずかしい会社じゃないか!やめろ!』と怒鳴られた経験なんかもあります。

採用に携わっていた時も『女性の場合は…』と性別で対応を分けさせられたこともあり、本当に21世紀の先進国なのかな?と疑問に思うことが多々ありました。

 

圧倒的リアリティがあるこの小説をただの絵空事である、と見ないことにするのも自由だとは思いますが、いつかしっぺ返しが来るんじゃないかな。

個人的には、できたら男性に読んでもらいたい小説だと思いました。

もし不快感を覚えたとしても、その不快感の源がどこなのか、何なのかを考えながら読了すべきな気がします。

 

これ映画化ってどうなるんだろうね、映画だとなおさら辛くなりそう…